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攻殻機動隊 S.A.C. の OP をロシア語で歌いたい

Posted: 2015-04-14 (Modified: 2016-03-22)

攻殻機動隊 ARISE の TV 版が今週から放送されるそうです。楽しみですね。私が攻殻機動隊という作品に初めて触れたのは 2008 年ころにレンタルビデオ店で攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX のDVDを借りて見たときでした。名作と呼ばれるだけあってとても魅力的な話でしたが、それと同じくらい Origa の歌う不思議な雰囲気のオープニング曲 Inner Universe が印象的でした。そこで自然な流れとして「この曲を歌いたい」という願望が湧き上がってきたのですが、この曲の歌詞の約半分はロシア語で、学習のコストの高さからずっと手をつけられずにいました。そんな状態でもう約 7 年(初回放送から約 12 年!)が経ってしまいましたが、その間にロシア語の教材を買ったり、言語学の知識を身につけたりしたので「今ならいけるんじゃないか」と思い、記事を書きながら勉強することにしました。

この記事を作成した主な目的は、上記のように自分の勉強のためですが、私と同じく Inner Universe の歌詞に興味を持っている方や、インターネットを活用した語学の勉強法に興味がある方の参考にもなるように書いたつもりです。前提となる専門的な知識は設けたくなかったのですが、どうしても記事が肥大化してしまうので、発音記号 (IPA) は知っている前提で書きました。もしご存知なければ「国際音声記号 - Wikipedia」で記号を調べながら読むといいかと思います。使った教材については、使った教材の項に書いてあります。

間違いを見つけた方は gmail: pecorarista までご連絡いただけると助かります。なお、この記事の作成にあたり、著作権を侵害することがないように十分に配慮しましたが(全文の掲載や、翻訳権の侵害となるような和訳は行っておりません。)、万が一侵害していることがあれば同連絡先にご連絡ください。


1. Ангелы и демоны кружили надо мной

  • ангелы /ˈanɡjɪljɨ̞/〈名〉天使;動物・男性・複数・主格 ← ангел/ˈangjɪl/
  • и /i/〈接〉と
  • демоны /ˈdjemənɨ̞/〈名〉悪魔;動物・男性・複数・主格 ← демон /ˈdjemən/
  • кружили /krʊˈʒɨljɪ/〈動〉まわす、まわる(=кружиться);複数・過去 ← кружить/krʊˈʒɨtj/
  • над /nəd/(第1音節にアクセントのある語の前で /nəd, nɐd/、無声子音で始まる語の前で /nət, nɐt/、ある種の子音結合の前で надо /nədə, nədɐ/)〈前〉〜の上方で
  • мной /mnoj/〈代〉私;具格 ← я /ja/

発音の表記は、こだわり始めるときりがないので、厳密な音声表記ではなく、音素表記を教科書を適当に参考にしながら少し詳しく書いたものになっています。また、あまり一般的でない記号 ‹ɨ̞› を使っていますが、これは (Jones & Ward 2011) においてバー付きのイオタで表されている /ɨ/ の弱化した音として使っています。

The Imperfective is the unmarked partner, used where the aspect is irrelevant (a simple statement of fact) or not being emphasised (the emphasis being elsewhere, most often on the subject)(中略). The Perfective form emphasizes completion and, by implication, a resulting state(中略).

2. Разбивали тернии и звёздные пути

この文には実は問題があって、歌詞カードには上のように表記してあるのですが、実際はここに書いてあるように Рассекали тернии и млечные пути と歌っているようです。ここでは後者の単語のみを調べます。

  • рассекали /rəsjsjɪˈkaljɪ/〈動〉切る、(水・波などを)切って進む;複数・過去 ← рассекать/rəsjsjɪˈkatj/
  • тернии/ˈtjernjɪjɪ/〈名〉棘;非動物・中性・単数・処格 ← терние/ˈtjernjɪjɪ/
  • млечные /ˈmljjnɨ̞jɪ/ 〈形〉乳状の;非動物・複数・対格 ← млечный /ˈmljjnɨ̞j/
  • пути/pʊˈtji/ 〈名〉道;非動物・男性・複数・対格 ← путь /ˈputj/
    • млечный путь 天の川、銀河

3. Не знает счастья только тот,

  • не /njɪ/ 〈助詞〉(任意の文成分の直前に立ち、それを否定する)
  • знает /ˈznajɪt/ 〈動〉知る;3人称単数・現在 ← знать /ˈznatj/
  • счастья /ˈʃjʃjæsjtjjə/ 〈名〉幸福;非動物・中性・単数・属格 ← счастье /ˈʃjʃjæsjtjjɪ/
  • только /ˈtoljkə/ 〈副〉ただ、〜だけ
  • тот /tot/ 〈代〉(関係代名詞によって導かれる従属節の先行詞として、従属節の説明する人や事物をさす)(〜ところの)その人・もの

4. Кто его зова понять не смог…

ロシア語がよくわかっていなかったので、意外なところに属格が出てきてしばらく意味がわかりませんでした。文法書を見ると、否定される他動詞の補語は属格になるということが書いてありました (宇多 2009, p. 102)。そう言われると上の “счастья” も同じ理由ですね。この記述を見つけられなければ大きな誤解をしたまま進めるところでした。なお、この否定される他動詞の補語に属格を用いる決まりですが、20 世紀初め以降は、一部で対格が許容されるようになっていて、今では共存している状況らしいです(同書)。

  • кто /ˈkto/ 〈関係代名詞〉〜する人(男性単数扱い);主格
  • его /jɪˈvo/ 〈所有代名詞〉彼の、(男性名詞・中性名詞を指して)その
  • зова /ˈzovə/ 〈名〉呼び声;非動物・男性・単数・属格 ← зов /ˈzof/
  • понять /pɐˈnjætj/ 〈動〉理解する;完了 ← понимать /pənjɪˈmatj/
  • смог /ˈsmok/ 〈動〉できる;完了・男性・単数・過去 ← мочь /ˈmoʧj/

5. Собой остаться дольше…

ここで発音がよくわからなかったのが “остаться” の -ться の部分です。(Jones & Ward 2011, p. 150) には

In reflexive infinitives ending in -ться the soft sign has no phonetic function. Such infinitives and the third persons singular and plural of reflexive verbs are pronounced, at normal conversational speed, with ts, and the letter я does not have the significance of ‘preceding palatalized constant’ which it would normally have after a consonant letter.(中略)As the speed of pronunciation decreases, the stop element of ts in such words is prolonged, until, in a slow, precise manner of speaking, such words are pronounced with the sequence t-s.

と書いてあります。t-s は /ʦ/ のような1つの破擦音ではなく、/t/ と /s/ の連続を表します。(Jones & Ward 2011) ではこの説明を踏まえ /ʦ/ と表し、博友社の辞典では /tʦ/ と表しています。ここでは前者の表記を使います。

  • собой /sɐˈboj/ 〈再帰代名詞〉自分自身;具格 ← себя /sjɪˈbja/
  • остаться /ɐˈstaʦə/ 〈動〉残る、とどまる;完了 ← оставаться /ɐstɐˈvaʦə/
  • дольше /ˈdoljʃɨ̞/ 〈副〉長く;比較級 ← долго/ˈdolgə/

ここで具格が出てくるのは、何だか妙な感じがします。(Cubberley 2002, p. 205) によると、コピュラや、英語で言うところの “become” や “remain” のような変化に関する意味を持った動詞(“semi-copulative verb” などと呼ぶ人もいるそうです。)は補語として具格を取るのが普通だということでした。 “оставаться” はまさにその semi-copulative verb でしょう。これでまた 1 つ謎が解けました。

6. …Бесконечный бег…

どんどんいきます。これは短いですね。

  • бесконечный /bjɪskɐˈnjjnɨ̞j/ 〈形〉無限の、いつ終わるかわからない;非生物・男性・単数・主格
  • бег /ˈbjek/ 〈名〉疾走、ものごとの早い経過;非生物・男性・単数・主格

7. Пока жива я могу стараться на лету не упасть,

残すはあと 1 文です。ここまで来たら最後まで頑張りましょう。

  • пока /pɐˈka/ 〈接〉〜する間
  • жива /ʒɨ̞ˈva/ 〈形〉生きている;女性・単数・短語尾 ← живой /ʒɨ̞ˈvoj/
  • я /ˈja/ 〈人称代名詞〉私;主格
  • могу /mɐˈɡu/ 〈動〉できる;1人称単数・現在 ← мочь /ˈmoʧj/
  • стараться /stɐˈraʦə/ 〈動〉努力する
  • на /nə/ (第 1 音節にアクセントのある語の前で、または а, о ではじまる語の前では /nɐ/;特定の語結合で慣用的にアクセントをとる場合は /ˈna/)〈前置詞〉〜の上で
  • лету /ˈljɪˈtu/ 〈名〉飛行;非動物・男性・単数・処格2 ← лёт /ˈljot/
    • на лету 飛行中に
  • упасть /ʊˈpastj/ 〈動〉落ちる、転落する;完了 ← падать /ˈpadətj/

“жива” について調べているとき、「短語尾」という見慣れない用語が目に入ってきました。文法書を読むと、ロシア語の形容詞には、短語尾と長語尾があり、文字通り語尾の長さに違いがあり、複雑な使い分けが行われているということがわかりました。大きな違いは、長語尾が限定的にも叙述的にも使える一方で、短語尾は叙述的にしか使えないということです。形容詞の短語尾形は、英語でいうところの形容詞 “alive” のような使い方をするのだ、と私は捉えました。ここで出てきた “жива” はちょうど、英語の “alive” と同じ意味なので、もしかしたら何かしらの共通の背景があるのかもしれません。

「処格2」は、特定の男性名詞が前置詞 в, на に支配されるときにとる処格の形です。「処格2」という用語は一般的な名称ではありません。そもそも日本語で書かれたロシア語の文法書は通常「処格」ではなく「前置格」という用語を使うことが多いようです。

8. Не разучиться мечтать… любить…

前からの続きです。これで本当に最後です。

  • разучиться /rəzʊˈʧjiʦə/ 〈動〉(習ったことを)忘れる、〜できなくなる;完了 ← разучиваться /rɐˈzuʧjɪvəʦə/
  • мечтать /mjɪʧjˈtatj/ 〈動〉空想する
  • любить /ljʊˈbjitj/ 〈動〉愛する

まとめ

ロシア語は、文字以外ほとんどわからない状態からのスタートでしたが、どうにか 1 週間程度で歌詞の発音と大まかな内容をつかむことができました。以下で使った教材を紹介しますが、特に Wiktionay が役に立ちました。 Web 上の資源が充実してきている今こそ、一度挫折した語学の勉強をやり直す好機だと思います。みなさんもやってみてはいかがでしょうか。

使った資料

  • ロシア語アルファベット - Wikipedia
    もし文字を知らなければ、まずは文字を覚えなくてはなりません。ロシア語のアルファベットはキリル文字で、これはラテン文字や数学・物理学でよく使うギリシャ文字に似ています。なので雰囲気をつかむだけなら(アラビア文字やタイ文字などと比較すると)難しくないと思います。
  • 博友社ロシア語辞典
    各見出し語に発音が書いてあってとても使いやすいです。
  • Викисловарь (Wiktionay)
    屈折(動詞の活用など)の表が載っていることが多く、また各々の屈折形に強勢の位置が明示してあるため、初学者にとって非常に有用です。
  • ロシア語文法便覧
    これに限らず文法書は、ある程度知識がないと気になる項目を探すのが大変ですが、関連ありそうな箇所を眺めてると少しずつ知識が増えるような気がします。
  • The Phonetics of Russian
    1 冊まるごとロシア語の発音について書いてあるので、非常に役に立ちます。私は持っていないのですが、日本語で書かれているものとして「ロシア語音声概説」という本があり、評判がよいようです。

Reference

  • Cubberley, P. (2002). Russian: A linguistic introduction. Cambridge University Press.
  • Jones, D., & Ward, D. (2011). The phonetics of Russian. Cambridge University Press.
  • Origa & Shanti Snyder (2011). Inner Universe. 「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX O.S.T.+」収録. フライングドッグ.
  • 宇多文雄 (2009). ロシア語文法便覧. 東洋書店.
  • 木村彰一, 佐藤純一, 森安達也, 栗原成郎, 中村喜和, 桑野隆, 松井茂雄 (1995). ロシア語辞典. 博友社.