ミシュケル語

私が書いているファンタジー小説に登場する人工言語「ミシュケル語」の概説です。

1 音韻

1.1 母音

1.1.1 単母音

本言語の母音体系は、/a, i, u, e, o/ の5母音からなり、それぞれに対応する長母音 /aː, iː, uː, eː, oː/ が存在する。 /a, e, o/ は対応する長母音と音質的な差はあまりなく、主に持続時間の違いによって区別される。一方 /i, u/ は、対応する長母音よりも中舌寄りで、やや開いた調音となる。

母音
前舌 中舌 後舌
/i/ /u/
中央 /e/ /o/
/a/
※音声的な補足
  • /a(ː)/ は中舌開母音 [ä(ː)] で発音される。
  • /e, eː/ はそれぞれ前舌中央~半開母音 [e̞(ː)~ɛ(ː)] として発音される。
  • /o(ː)/ は円唇の後舌中央~半開母音 [o̞(ː)~ɔ(ː)] として発音される。
  • 長母音/iː/ は前舌狭母音 [iː] として発音される。
  • 短母音 /i/ は対応する長母音よりやや中舌寄りで、やや開いた [ɪ] となる。
  • 長母音/uː/ は円唇後舌狭母音 [uː] として発音される。
  • 短母音 /u/ は対応する長母音よりやや中舌寄りで、やや開いた [ʊ] となる。
※表記に関する補足

以降で音声表記をする際、簡潔さのため、以下のような簡易的な表記を採用する。

  • [e̞~ɛ][e]
  • [o̞~ɔ][o]
  • [ä][a]

1.2 子音

ミシュケル語は以下の表に示すような子音の音素をもつ。

子音
唇音 唇歯音 歯茎音 後部歯茎音 硬口蓋音 軟口蓋音 口蓋垂音 声門音
鼻音 m/m/ n/n/
閉鎖音 無声音 p/p/ t/t/ k/k/ /ʔ/
有声音 b/b/ d/d/ g/ɡ/
摩擦音 無声音 f/f/ s/s/ š/ɕ/ x/x/ h/h/
有声音 z/z/ ž/ʑ/ ğ/ɣ/
ふるえ音 r/r/
接近音 l/l/ j/j/ w/w/
子音の詳細
  • ミシュケル語では語頭の母音の前には声門閉鎖音 /ʔ/ [ʔ] が挿入される。だがこのような声門閉鎖音は正書法上は表記されない。
    (例)āš /ʔaːɕ/ pron 1sg indep
    上記以外の場合には で明示的に表記される。
    (例)kis’a /ˈkis.ʔa/ pron 2sg hon indep あなた
  • /p, t, k/ は弱く帯気する([p~pʰ, t~tʰ, k~kʰ])。語中ではさらに帯気が弱まる。
  • /b, d, ɡ/ は無気有声音 [b, d, ɡ] である。
  • /r/ は語頭(/kr/ のような語頭の子音群を含む)ではふるえ音 [r]、語中や語末でははじき音 [ɾ] となる。
  • /x/ は摩擦音 [x~χ] として発音される。
    (例)rīx /riːx/ [riːx~riːχ] n
  • /ɣ/ は摩擦音 /x/ に対応する有声音とみなされるが、実際は接近音 [ɣ̞~ʁ̞] として発音されることが多い。語中の母音間では摩擦音 [ɣ~ʁ] になりやすい。ゆっくりとした発音では語頭でふるえ音 [ʀ] になることもある。
    (例)kwāğ /kwaːɣ/ [kwaːɣ̞~kwaːʁ̞] adj 黒い
  • /h//i, iː/ の前で [ç] となることがある。
    (例)hīles [hiːl~çiːl] v 癒す
  • /f/[f] で発音される。
  • /j/ は接近音 [j] であるが、語中の母音間では摩擦音 [ʝ] になりやすい。
  • /w//f/ に対応する有声音であり、摩擦音 [v] または接近音 [ʋ~w] で発音される。
    (例)wāsa /ˈwaː.sa/ [ˈvaː.sa~ˈʋaː.sa~ˈwaː.sa] n

1.3 音節構造

1.3.1 音節構造の概要

本言語の音節は (C)CV(V)(C) と表される。語頭に母音が現れる場合、その前に声門閉鎖音 /ʔ/ が挿入される。したがって、本言語では語頭に裸の母音が現れることはない。

1.3.2 音素配列制約

  • 音節頭の子音群 (onset consonant cluster)
    • /Cr/
      この子音群において、 C は鼻音 /m, n/ を除く閉鎖音 /p, t, k, b, d, ɡ/ のいずれかに限られる。
    • /Ct, Ck/
      この子音連続に置いて、 C/s, ɕ/ のいずれかに限られる。
  • 音節核
    /w/ の後には円唇後舌母音 /u, ū, o, ō/ は現れない。
  • 音節末子音 (coda)
    音節末に現れる子音は /m, n, r, l, s, z, ɕ, ʑ, x, ɣ/ のいずれかに限られる。
音節パターンのその例
パターン
CV kom /kom/ prep ~と
CVC min /min/ prep ~から
CVV xītā /ˈxiː.taː/ 小麦
CVVC āš /ʔaːɕ/ pron 1sg indep
CCV kwara /ˈkwa.ra/ n
CCVC briğ /briɣ/ n
CCVV pwā /pwaː/
CCVVC štūr /ɕtuːr/

1.4 強勢

以下の規則に従う。

  1. 長母音(二重母音)を音節核とする音節があれば、そのようなもののうち最も右側にあるものに強勢が置かれる。
    (例)wātigān /waː.ti.ˈgaːn/ n ナス
  2. そのような音節がない場合、最後から2番目の音節(penultimate syllable)に置かれる。
    (例)aštarte /ʔaɕ.ˈtar.te/ アシュタルテ
  3. 以下は強勢の位置に影響を与えない。
    • 複数形語尾 -e, -’e
    • 定冠詞 -wa
    • 属格を表す接辞 -i
    • 動詞につく時制、相、態を表す接辞
      (例)segres /ˈse.gres/ 閉める → segretanes /ˈse.gre.ta.nes/ pst psv 1sg

2 形態論

2.1 名詞

2.1.1 数

本言語の名詞や代名詞には単数と複数がある。

  • 複数形は単数形に接尾辞 -e を付加することで作られる。
    (例)mijar /ˈmi.jar/ n sg ネコ → mijare /ˈmi.ja.re/ n pl ネコ(複数)
  • 名詞が母音で終わる場合は ’e を付加する。
    (例)šāna /ˈɕaː.na/ n sg 少女 → šāna’e /ˈɕaː.na.ʔe/ n pl 少女ら

2.1.2 定性

  • 名詞の後ろに ha を置く。
    kēn n indef 犬 → kēn ha n def (その)犬

2.1.3 属格

所有関係などを表すとき、所有されるものを表す名詞(句)の後ろに i /ʔi/ を置き、その後ろにそれを所有しているものを表す名詞(句)を置く。この所有しているものを表す「i + X」をXの属格(genitive)という。具体的には以下のような関係を表すときに用いる。

  • 所有関係
    (例)dāx i godo ha その男の家
  • 部分–全体関係
    (例)pā i kēn ha その犬の手(前足)
  • 親族関係
    (例)tām i fēdi ha その女の父
  • 所属
    (例)šār i kur’a ha その国の王

2.3 代名詞

それぞれの代名詞には数(単数・複数)の区別があり、主に主語として用いる独立形(independent forms)、主語を表す接辞として動詞につく主格接辞(nominative affixes)、前置詞の目的語などに使われる斜格接辞(oblique affixes)の3つの形態がある。2人称には目上の者に用いる敬称と、同格・目下の者、親しい者などに用いる親称との区別がある。3人称単数には男性・女性・中性の3つの性がある。中性は無生物や性がわからない有生物に用いる。複数の場合は性の区別をしない。

代名詞
人称・敬称・性 \ 格・形態 独立形 主格接辞 斜格接辞
単数 複数 単数 複数 単数 複数
1人称 āš ašra -aš -ašim -oš -ošam
2人称 敬称 kis kis’a -is -asa -oğis -os’a
親称 derē -ari -ere -or -orē
3人称 男性 zāna -i -ana -ozi -oz
女性 ana -a -ona
中性 xes -es -os

動詞の主語が明らかな場合は主格接辞だけで表される。

Aur-i lo fēdi ha.
love-3ms acc woman def
彼はその女性を愛している。

指示対象が焦点や話題の場合は独立形が用いられる。その場合も主格接辞は必要である。

aur-i lo fēdi ha.
He love-3ms acc woman def
彼が彼女を愛している。

2.3.2 所有代名詞

一般名詞の属格とは「XのA」のような表現の「Xの」の部分をいうのであった。「私」や「彼」のような代名詞にもそのような表現で用いられる形があり、それを所有代名詞 (possessive pronoun)、あるいはそのまま代名詞の属格という。例えば「私の」は žōš という。これは元々は一般名詞の属格に用いられる前置詞 i と1人称単数の斜格接辞 -oš が結合したであったが、言いやすさのため変化したものと考えられている。他の代名詞についても同様に ž- を斜格接辞の先頭の oō に変えたものを結合させてつくられる。
(例)mijar žōna 彼女のネコ

2.4 形容詞

形容詞には限定形 (attributive form)と叙述形 (predicate form) 2通りの形がある。限定形は「大きな犬」のように名詞を限定する際に用いる。叙述形は「その犬は大きい」のように対象の様子を説明する際に用いられる。基本的な形は叙述形であり、限定形は叙述形の語尾が子音であれば -en、母音であれば -n をつけて作られる。

Wāsa ha krais-en al-t-es kwāğ.
bird def big-attr cop-pst-3sg black
その大きな鳥は黒かった。

2.5 動詞

ミシュケル語の動詞は数と人称、時制、相、態によって形が変わる。辞書の見出しのように動詞そのものを指す場合には語幹に3人称中性の主格接辞 -es をつけた形を用いる。例えば ales という動詞は、語幹が al- であり、 以下の例のように動詞の語幹に時制、態、相、数と人称の順番で接辞がつく。

Weskam segr-et-an-im-aš bāu ha.
yesterday close-pst-psv-impfv-1sg gate-def
昨日は門が閉められていた。

2.5.1 数と人称

代名詞の項目で述べたように、動詞にはその末尾に主語の人称・数に応じた接辞が付与される。以下に主格接辞のみを再掲する。

主格接辞
人称・敬称・性
単数 複数
1人称 -aš -ašim
2人称 敬称 -is -asa
親称 -ari -ere
3人称 男性 -i -ana
女性 -a
中性 -es

2.5.1 時制

過去時制は接辞 -et- を用いて表す。動詞の語幹が母音+r または母音+lで終わるときは代わりに -t- を用いる。

Debr-et-aš kom-ozi weskam.
talk-pst-1sg with-him yesterday
私は昨日彼と話した。

2.5.2 相

未完結相は進行・反復・習慣・状態などの意味を表す。これは接辞 -im- を用いて表す。

Ğad-im-aš pana mijar kwāğ.
keep-impfv-1sg one cat black
私は黒いネコを1匹飼っている。

2.5.3 態

ミシュケル語には能動態のほかに中動態と受動態がある。中動態は主に以下のような場合に用いられる。

  • 意図とは無関係であったり、意図に反して何かをされる
  • 動作の結果が自分の利害に関連する

中動態は接辞 -ar で表される。

Bāu ha segr-et-ar-es.
gate def close-pst-mdl-3sg
(意味)話者は閉めようと思ってなかったがぶつかるなどして門が閉められた。
(訳)門が閉まった。

知覚動詞の中動態は主体の意図を伴わない知覚を表す。
(例)見る → 見える、聞く → 聞こえる

Big-ar-īs. žama-n.
look-mdl-3pl mountain-pl
(意味)話者が見ようとしなくてもその山々は見られる。
(訳)山々が見える。

受動態は行為の対象を主語として表す。受動態は接辞 -an によって表される。行為者を明らかにする場合は前置詞 iki を用いる。

Šağ-et-an-aš.
summon-pst-psv-1sg
私は呼び出された。

2.5.4 コピュラ

コピュラとは英語のbe動詞のように主語と状態や属性を表す語(形容詞や名詞)を結びつける語である。ミシュケル語におけるコピュラ動詞は ales である。これは一般の動詞と同じように活用する。

Kēn ha al-t-es midi.
dog def cop-pst-3sg small
その犬は小さかった。

現在の主語の状態や属性を表す叙述文ではコピュラを省略することができる。コピュラを省略するときは主語を省略することができない。

krais.
he big
彼は大きい。

2.6 前置詞

2.6.1 主要な前置詞

(1) lo

前置詞 lo は「~を」(直接目的語、対格)を表す。
(例)Mogaš lo mār. 「(私は)肉を食べる。」

(2) kom

前置詞 kom は「~と一緒に」、「~と共に」といった意味を表す。
(例)kom mijar 「ネコと一緒に」

(3) min

前置詞 min は「~から」や「~より」といった時間的・空間的な起点を表す。(例)

2.6.2 代名詞との結合

前置詞が人称代名詞を目的語にとる場合は基本的に斜格接辞を用いる。
(例)min + -osminos それから

複数の人称代名詞をとるときや、人称代名詞が対比される場合には独立形が用いられる。
(例)

直接目的語(対格)を表す lo は人称代名詞の斜格接辞と結び付く際に、lo- とはならず、かわりに接辞の先頭の o が長母音となる。
(例)lo + -ošōš 私を

3 統語論

3.1 語順

本言語の基本語順はVSO(動詞‐主語‐目的語)である。ただし格標識および動詞の人称・数一致によって項(argument)の役割が判別可能であるため語順は比較的自由であり、情報構造(話題・焦点)に応じて語順が変化する。

3.1.1 トピック

トピック(既知情報)として提示される名詞句は節頭(clause-initial position)に置かれる。

Weskam segr-et-an-im-aš bau ha
yesterday close-pst-psv-impfv-1sg gate def
昨日は門が閉められていた。

3.1.2 主語代名詞の省略

動詞は人称・数に一致する活用語尾を持つため、主語代名詞はしばしば省略される。

3.2 疑問文

極性疑問文 (polar question)とは「はい(肯定)」または「いいえ(否定)」で回答する疑問文のことである。Yes/no疑問文とも呼ばれる。ミシュケル語では平叙文の文末に ki をつけて表される。

Kōn-et-ari žağam ha weskam ki?
go-pst-2sg.hon to forest def yesterday pqp
あなたは昨日森へ行きましたか?

日本語の「何」や「どこ」のように未知の対象について尋ねるときに用いる語を疑問詞 (interrogative word)という。ミシュケル語の疑問詞には 「何」

4 文字と記法

ミシュケル語アルファベット
文字 音素 転写 コード
󰀇 /b/ b U+F0007
󰀈 /p/ p U+F0008
󰀆 /m/ m U+F0006
󰀊 /d/ d U+F000A
󰀋 /t/ t U+F000B
󰀌 /z/ z U+F000C
󰀑 /s/ s U+F0011
󰀒 /ɕ/ š U+F0012
/ts/ c
/tɕ/ č
󰀉 /n/ n U+F0009
󰀕 /l/ l U+F0015
󰀖 /r/ r U+F0016
󰀌 /j/ j U+F000C
󰀎 /ɡ/ g U+F000E
󰀍 /k/ k U+F000D
󰀀 /ʔ/ U+F0000
󰀗 U+F0017
󰀏 /w/ w U+F000F
󰀔 /h/ h U+F0014

5 基礎語彙

以下の表はSwadesh 207を元に作成した。

1–104
番号 英語 ラテン文字転写
1 I āš
2 you (singular) anti
3 he, she, it xes
4 we āšin
5 you (plural) antin
6 they xesin
7 this
8 that
9 here
10 there
11 who
12 what
13 where
14 when
15 how
16 not
17 all
18 many
19 some
20 few
21 other
22 one
23 two
24 three
25 four kvağ
26 five
27 big kraĭs
28 long
29 wide
30 thick
31 heavy
32 small
33 short
34 narrow
35 thin
36 woman
37 man (adult male)
38 man (human being)
39 child
40 wife
41 husband
42 mother
43 father
44 animal
45 fish
46 bird
47 dog
48 louse
49 snake
50 worm
51 tree
52 forest
53 stick
54 fruit
55 seed
56 leaf
57 root
58 bark (of a tree)
59 flower
60 grass
61 rope
62 skin
63 meat
64 blood
65 bone
66 fat (noun)
67 egg
68 horn
69 tail
70 feather
71 hair
72 head
73 ear
74 eye
75 nose
76 mouth
77 tooth
78 tongue (organ)
79 fingernail
80 foot
81 leg
82 knee
83 hand
84 wing
85 belly
86 guts
87 neck
88 back
89 breast
90 heart
91 liver
92 to drink
93 to eat
94 to bite
95 to suck
96 to spit
97 to vomit
98 to blow
99 to breathe
100 to laugh
101 to see
102 to hear
103 to know
104 to think
105–207
番号 英語 ラテン文字転写
105 to smell
106 to fear
107 to sleep
108 to live
109 to die
110 to kill
111 to fight
112 to hunt
113 to hit
114 to cut
115 to split
116 to stab
117 to scratch
118 to dig
119 to swim
120 to fly
121 to walk
122 to come
123 to lie (as in a bed)
124 to sit
125 to stand
126 to turn (intransitive)
127 to fall
128 to give
129 to hold
130 to squeeze
131 to rub
132 to wash
133 to wipe
134 to pull
135 to push
136 to throw
137 to tie
138 to sew
139 to count
140 to say
141 to sing
142 to play
143 to float
144 to flow
145 to freeze
146 to swell
147 sun
148 moon
149 star
150 water
151 rain
152 river
153 lake
154 sea
155 salt
156 stone
157 sand
158 dust
159 earth
160 cloud
161 fog
162 sky
163 wind
164 snow
165 ice
166 smoke
167 fire ʾagat
168 ash
169 to burn
170 road
171 mountain
172 red
173 green
174 yellow
175 white
176 black
177 night
178 day
179 year
180 warm
181 cold
182 full
183 new
184 old
185 good
186 bad
187 rotten
188 dirty
189 straight
190 round
191 sharp (as a knife)
192 dull (as a knife)
193 smooth
194 wet
195 dry
196 correct
197 near
198 far
199 right
200 left
201 at
202 in
203 with
204 and
205 if
206 because
207 name